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最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)875号 判決 1996年10月29日

上告人

深草亮子

右訴訟代理人弁護士

西野泰夫

斉藤洋

後藤潤一郎

新海聡

被上告人

木之下隆俊

被上告人

株式会社

エフピコ

右代表者代表取締役

小松安弘

被上告人

住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

小野田隆

右三名訴訟代理人弁護士

渡辺紘光

主文

原判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人西野泰夫、同斉藤洋、同後藤潤一郎、同新海聡の上告理由について

一  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人木之下隆俊は、昭和六二年二月二七日、宮崎県東臼杵郡門川町内の道路上において、被上告人株式会社エフピコが所有する普通乗用自動車を運転して走行中、上告人の運転する自家用乗用自動車に自車を追突させた。上告人は、本件事故により、運転席のシートに頭部を強く打ちつけ、その直後から首筋にしびれや痛みを感じ、翌日、整形外科医院において受診したが、その時点で、頸部痛等の症状があり、頸椎捻挫と診断された。上告人は、同年三月四日から同年一二月一六日まで、右医院に入院し治療を受けたが、頸部・後頭部疼痛等の症状があり、右退院後も通院治療を継続している。上告人は、右入院中に視力の低下を訴えて、同年四月二三日、眼科医院において受診したところ、矯正視力の低下等の症状が見られ、これら眼症状は、頭頸部外傷症候群によるものと診断された。

2  上告人は、平均的体格に比して首が長く多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を有していたところ、この身体的特徴に本件事故による損傷が加わって、左胸郭出口症候群の疾患やバレリュー症候群を生じた。バレリュー症候群については、少なくとも同身体的特徴が同疾患に起因する症状を悪化ないし拡大させた。また、頭頸部外傷症候群による前記眼症状についても、上告人の右身体的特徴がその症状の拡大に寄与している。

3  右事実関係における上告人の症状に加え、バレリュー症候群にあっては、その症状の多くは他覚的所見に乏しく、自覚的愁訴が主となっており、実際においては神経症が重畳していることが多いので、更にその治療が困難とされていること、そのためもあって、初期治療に当たり、不要に重症感を与えたり後遺症の危険を過大に示唆したりしないことが肝要であるとされていることが認められ、これを上告人の前記症状等に照すとき、上告人の右各症状の悪化ないし拡大につき、少なからず心因的要素が存するということができる。

二  本件は、上告人が本件事故により被った損害の賠償を請求するものであるが、原審は、右事実関係を前提として、本件において上告人の首が長いこと等の事情にかんがみると、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して上告人の首が長いという素因及び前記心因的要素を斟酌し、本件事故による上告人の損害のうち四割を減額するのが相当であると判断した。

三  しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。

被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができることは、当裁判所の判例(最高裁昭和六三年(オ)第一〇九四号平成四年六月二五日第一小法廷判決・民集四六巻四号四〇〇頁)とするところである。しかしながら、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。

これを本件についてみるに、上告人の身体的特徴は首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるということであり、これが疾患に当たらないことはもちろん、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されているといった事情は認められないから、前記特段の事情が存するということはできず、右身体的特徴と本件事故による加害行為とが競合して上告人の右傷害が発生し、又は右身体的特徴が被害者の損害の拡大に寄与していたとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するのは相当でない。

そうすると、損害賠償の額を定めるに当たり上告人の心因的要素を斟酌すべきか否かはさておき、前示と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は上告人敗訴部分につき破棄を免れない。そして、本件については、損害額全般について更に審理を尽くさせる必要があるから、右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官尾崎行信)

上告代理人西野泰夫、同斉藤洋、同後藤潤一郎、同新海聡の上告理由

第一 法令違反

一 原判決は、「一審原告には、前記認定の体質的素因があったところに、本件事故による損傷が加わって、左胸郭出口症候群やバレリュー症候群の疾患を生じたというべきであり……矯正視力の低下及び調節障害の疾患についても右体質的素因がその被害の拡大に寄与したものと推認」し、さらに「バレリュー症候群にあっては、……一審原告の右症状の悪化ないし拡大につき、少なからず心因的素因が存する」としたうえで、「交通事故と被害者の体質的な素因等が競合して、被害者の疾患が生じ、あるいはその被害が拡大した場合には、被害者に生じた、あるいは生じうる損害の全部を加害者側に負担させることは公平の理念に照らして相当ではないので、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して減額すべきところ、……本件事故による一審原告の損害のうち、六割の限度で一審被告エフピコ及び同木之下に負担させるのが相当である」旨判示した。

二 しかしながら、そもそも類推適用とは、「ある事項について規定された法規を類似の他の事項に適用すること」であり「法の規定していない事態に法の規定している事態との類似を理由として、その法を適用すること」であるといわれる(新法律学辞典第三版)のであるから、過失相殺が適用される事態と、体質的素因が競合して損害が発生ないし拡大した場合や心因的素因が損害の拡大に寄与した場合とが、類推適用を許す程度に類似している必要がある。

三 そして、過失相殺とは、「公平の見地から、損害賠償の額を定めるについて被害者の過失を考慮すべきである」とされるものであり、かつその場合の被害者の過失とは、「不法行為の成立要件の場合のように厳格な意味ではなく、不注意によって損害の発生を助けたということである」とされ、かつ「行為の結果として責任が生じることの認識能力がある必要はなく、損害の発生をさけるのに必要な注意をする能力があればよい」とされる(法律学全集、事務管理・不当利得・不法行為、二四六頁)。

したがって、過失相殺とは、被害者に一定の落度があった場合に、公平の見地から損害賠償額を減額する法理であるといえる。

四 したがって、体質的素因が競合して損害が発生ないし拡大した場合や心因的素因が損害の拡大に寄与した場合に過失相殺の規定を類推適用する場合には、その体質的素因の競合や心因的素因の寄与が、過失相殺における被害者の過失と同程度に被害者の落度といえる場合に限るものと考えられる。

なぜならば、被害者に何らの落度が無い場合にも、損害賠償の額を減額するとしたならば、それはそもそも「公平」を失する結果となり、行為と相当因果関係にある損害の賠償を定めた七〇九条の原則から何らの理由無く大きく逸脱することとなるからである。

五 この点、判例は、まず心因的素因の寄与について、「身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつその損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、損害賠償額を定めるにつき、民法七二二条を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる」とし、「上告人の特異な性格、初診医の安静加療約五〇日という常識はずれの診断に対する過剰な反応、本件事故前の受傷及び損害賠償請求の経験、加害者の態度に対する不満等の心理的な要因によって外傷性神経症を引き起こし、さらに長期の診療生活によりその症状が固定化したもの」と認定して、損害額を四割に減額した(最高裁判所昭和六三年四月二一日第一小法廷判決民集四二巻四号二四三頁)。

しかしながら、右判例の事案は、上告人の特異な性格、医師の常識はずれの診断に対する過剰な反応など、被害者の落度を認定したうえで、その心理的要因による損害の拡大を認定したものであって、まさに過失相殺における被害者の過失と同程度の落度が損害の拡大について認められた事案というべきである。

また、体質的素因については、「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、被害者の疾患をしんしゃくすることができる」とし、事故の一か月前にタクシー内で仮眠中に軽微とはいえない一酸化炭素中毒にかかり、退院後タクシー運転業務に従事していたところ事故にあい、その後精神障害を呈して死亡した事案につき、一酸化炭素中毒もその原因となっていた旨認定して、損害の五〇パーセントを減額した。

しかしながら、右事案は、被害者が一酸化炭素中毒にかかっていながらタクシー運転業務に従事して事故にあい、しかも頭部外傷を理由とするだけでは説明が困難な精神障害をおこして死亡した事案であって、死亡の結果については被害者に相当の落度があった事案であり、あるいはさらにそもそも事故と死亡という損害の間の相当因果関係自体が希薄な事案であるとさえいえる。

したがって、判例も、体質的素因の競合や、心因的素因の寄与につき、ただちに損害額の減額をなしているのではなく、公平の見地から、体質的素因の競合や心因的素因の寄与につき被害者に落度のある場合に損害額の減額をなしているものである。

六 ところで、原判決は、鑑定の結果として、「一般的に一審原告のように首の長い女性は胸郭出口症候群になりやすいが、一審原告にそのような体質的素因があったところに、一審原告が本件事故によって頭部を強くシートに打ちつけたことから……胸郭出口症候群が生じた可能性が高い」とし、「一審原告には多少の頸椎不安定症の素因があったところ、一審原告は本件事故によって頸椎が障害を受け……少なくともバレリュー症候群の症状を悪化せしめたことは否定できない」と認定したうえで、これらの「首がながい女性であること」及び「多少の頸椎不安定症」という体質的素因があったところに本件事故による損傷が加わって、左胸郭出口症候群やバレリュー症候群の疾患が生じ、少なくともバレリュー症候群については症状を悪化、拡大せしめたとし、頭頸部外傷性症候群による眼症状には、バレリュー症候群によるものが多いので、矯正視力の低下及び調節障害の疾患についても一審原告の体質的素因がその被害の拡大に寄与したものと推認している。

しかしながら、「首の長い女性であること」は、それ自体何ら非難されるべきことではなく、また、「多少の頸椎不安定症」も、もともと首の長い女性には頸椎不安定症が多いとされ、かつ頸椎不安定症のみではなんらの自覚症状もないとされるのであるから(第一審における鑑定人高岸の証言)、そもそも被害者に頸椎不安定症についての何らの自覚はなく、かつ非難されるべき点もないのであるから、一審原告にこれらの事実があったとしても、これをもって、公平の見地から損害を低減すべき体質的素因と呼ぶことはできないというべきである。

なんとなれば、同じ交通事故にあっても、人それぞれ事故に対する感受性はことなるのは当然のことであるから、たまたま被害者が首が長い女性であったために重い結果が生じたとしても、そのことについて被害者に何らの落度がない以上、公平の見地からいって、損害を減額することはできないと言うべきだからである。

しかも、「多少の頸椎不安定症」にいたっては、原判決の認定においても損害の拡大に寄与したというにすぎず、しかもその寄与も、外傷に伴い首を動かさなくなったことから首の筋力が落ち、じん帯も固定力が弱まったため症状が悪化したものであって、事故により当然発生したものであって、その寄与につき被害者たる上告人に落度を見出すことはできない。

この点、自ら招いた軽微ではない一酸化炭素中毒により精神障害を来して死亡した前記判例の事案とは事案を異にすると言わざるを得ない。

したがって、本件事故において、一審原告が「首の長い女性であること」および一審原告に「多少の頸椎不安定症」が存在したことは、本件事故による損害の発生ないし拡大につき、公平の見地から損害額を減額する程度の体質的素因ではなく、このことにより損害額を減額することは許されないというべきである。

七 さらに、原判決は、「一審原告の右症状の悪化ないし拡大につき、少なからず心因的要素が存するということができる」として心因的素因も損害減額の理由としている。

しかし、心因的素因の寄与についての認定に著しく問題があることは後述するとおりであるが、そもそも原判決は、本件事故に関して一審原告の心因的素因がどのような態様によって損害の拡大に寄与したのかを何ら具体的に認定せず、単にそもそもバレリュー症候群が他覚的所見に乏しく、自覚的愁訴が主となっていることのみから、心因的素因の寄与を認定しているものである。この点、前記判例では、「上告人の特異な性格」、「初診医の安静加療五〇日という常識はずれの診断に対する過剰な反応」などと被害者の行動につき具体的に認定したうえ、被害者に一定の落度を認めて、損害賠償額の減額の理由としているのである。

したがって、原判決が被害者たる上告人の心因的素因の寄与の態様たる具体的行為を何ら認定せず、単にバレリュー症候群であるとの理由のみから心因的素因の寄与を認定しているだけである以上、そこにはなんら被害者の落度を見出すことができず、なんら公平な見地から判断はなされていないというべきである。すなわち、原判決はバレリュー症候群の場合には当然に心因的素因が寄与しているものと言っているに等しく、とうてい減額の根拠を示したものとはいえない。

したがって、このような場合に、心因的素因の寄与を理由として損害賠償額を減額することはとうていできないものということができる。

八 以上のとおりであるから、原判決が、本件において民法七二二条二項の類推適用により損害額を六割の限度に減額したことは、同条の解釈適用を誤ったものであって、右が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第二 採証法則違反

一 原判決は、「乙第一号証、第一六号証の一ないし三によれば、バレリュー症候群にあっては、その症状の多くは他覚的所見に乏しく、自覚的愁訴が主となっており、実際においては神経症が重畳していることが多いので、更にその治療が困難とされていること、そのためもあって、初期治療にあたり、不用に重症感を与えたり、後遺症の危険を過大に示唆したりしないことが肝要であるとされていることが認められ、これを一審原告の前記症状等に照らすとき、一審原告の右症状の悪化ないし拡大につき、少なからず心因的要素が存するということができる(なお、原審証人前田丈夫に、同甲斐允雄、同向野利彦、原・当審証人高岸直人の各証言によっても、いまだ右事実を完全に否定することはできないというべきである。)。」と判示している。

二 しかし、原判決は、上告人のどのような症状や態度から心因的素因の寄与を認定したのか何ら具体的に示さず、単に上告人の症状がバレリュー症候群であることを唯一の理由として損害の拡大について心因的素因の寄与を認定しているにすぎない。

なお、原判決は、証拠として乙第一号証、第六号証の一ないし三を挙示してはいるものの、これらは、損害保険会社の立場にたって医学的見解としての一般論を述べたものにすぎず、本件事故において上告人の損害の拡大に心因的素因が寄与したことを具体的に判断したものではけっしてない。

しかも、原判決は「バレリュー症候群にあっては……実際においては神経症が重畳していることが多いので、更にその治療が困難とされていること、そのためもあって、初期治療に当たり、不用に重症感を与えたり、後遺症の危険を過大に示唆したりしないことが肝要とされていることが認められ」ると認定しているものであるが、原判決の挙示する乙第一号証及び第一六号証の一ないし三には、バレリュー症候群について原判決が認定したような事実の記載は一切ない。

かえって、原判決も示すとおり、一審、二審を通じて、証人となった医師四人が全員心因的素因の寄与を明確に否定しているところである。

また、そもそも第一審判決は、心因的素因の寄与を認定してはおらず、このような場合には、さらに積極的証拠を必要とすべきである。

加えて、原審では、第一審被告が再度の鑑定を申請したのに対して、あえてその必要性がないことを理由に申請を却下している。

したがって、右のような証拠状態では、とうてい本件事故につき、上告人の心因的素因が損害の拡大に寄与したと認定することは不可能である。

したがって、原判決が、右のような証拠状態で、心因的素因の寄与を認定したのは、甚だしい採証法則違反であり、判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第三 理由不備

一 原判決は、上告人が、一、二審を通じて入院期間中の付添費用を損害として請求しているにもかかわらず、何ら理由を示すことなく、しかも付添費用についての判断すら示すことなく損害として認定していない。

これは明らかに理由不備である。

二 原判決は、後遺障害の逸失利益の算定にあたり、一審判決とほぼ同様の事実認定をしておきながら、何らの具体的理由を示さず、労働能力喪失期間を一審が症状固定時から一〇年としたものを六年と限定した。

一般論として、鞭打ち損傷による神経系統の障害の場合、期間の経過により症状の改善が期待できるとしても、本件は特に重篤なバレリュー症候群にかかり、かつ調節不全による視力低下を伴っているものであり、原審口頭弁論終結時においてすら症状は何ら改善されず、保存的治療を継続しているのであるから、労働能力喪失期間を六年と限定するためには、特に理由を付すべきである。

したがって、この点は明らかに理由不備である。

三 原判決は、前述のとおり、体質的素因の競合及び心因的素因の寄与により、損害賠償額を六割に減額した。

しかし、六割に減額した理由は何ら具体的に述べられていない。七二二条二項の判断は自由裁量に委ねられているとはいえ、損害額の四割をも減額するのであるから、その根拠を具体的に示す必要がある。

ところで、一審及び二審の証人であり一審の鑑定人である高岸は、その証言のなかで、繰り返し、一般論として「首が長い」人は胸郭出口症候群になりやすいとは述べても、首が長いから胸郭出口症候群になったとは断定できない、また多少の頸椎不安定症とバレリュー症候群は関係がなく、不安定症がひどい場合には関係があるが、四割も寄与しているとは考えられないと述べているのであって、さらには心因的素因については証言した医師全員が否定しているのである。

したがって、このような事案において四割もの減額をするためには、さらに具体的な理由を付すべきであり、この点でも理由不備と言わざるを得ない。

第四 以上いずれの点からみても原判決は違法であって破棄されるべきである。

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